打ち上げ花火、君は誰とみるか。
友達、恋人、家族、子ども、孫、ペット、それぞれがそれぞれの思いを胸に空を見上げる。
儚くも眩しい夜だった。
レリーズケーブルを握り締め、シャッターボタンを押す。と、同時に「1.2.3.4…….」と数えだす。
打ち上げられた花火に照らされた君の横顔が僅かに湿気を帯びている。
おれの額には汗が滲んでいる。ただ暑いだけではない。高鳴る心臓と呼応するかのように空が明るくなる。ちらりともう一度、君の横顔を見る。目が合う。間違いない、まばゆいのは君のせいだ。
思いを伝えようか、否か。よし、この尺玉が散ったら伝えよう。
「おれは君のこ….」時間差で鳴る爆発音に見事にかき消された。
タイミングの悪さは実力の差だ。努力の乏しさは先走ったときに如実に現れる。運をも味方にできるヤツは隠れ努力家だったりするし、確固たる自信のもとで行動しているはずだ。
当たり前だけど、思っていることは相手に伝えなければ伝わらない。だけど伝えられた側の心境は無視していいのだろうか。純粋にお祭り、あるいは花火を楽しんでいるところを邪魔するのは論外だ。仕方ない、帰りの駅のホームで伝えようか。
続々と打ち上がる圧巻のスターマイン。迫力に圧倒され、胸に響く爆発音。打ち上げ花火が好きな理由のひとつは音なのかもしれない。他にも、一瞬の光を操る芸術であることや侘び寂びの感性をくすぐられるところ。夜空と花火のコントラストがはっきりしていてインパクトがあったり、幼少期のおぼろげな楽しかった記憶を思い出したり。
そうだ。手持ち花火も久しぶりにやってみたい。次を誘う口実にピッタリではないか。線香花火なら君のパーソナルスペースにコッソリ入れそうだ。「ねえ今度の週末に…
その時、隣にいたはずの君が正面に立っている。
花火の轟音で騒がしかった夜、私のココロは躍っていた。
ISO感度は100で絞り値はF8。中望遠でNDフィルターも使っているから白トビの心配はない。
空想にふけていた私の手は汗ばんでいた。
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